GPS同時動作におけるGPS受信感度の改善
White Paper
By: ChewEan Tan and Allen Wong
図1. Rxフロントエンドの簡略ブロック図
はじめに
S-GPS(同時全地球測位システム)の動作では、GPS信号の受信と
ハンドセットからの音声またはデータ信号の送信とが同時に行わ
れます。音声またはデータの送信によって生じる干渉信号は、GPS
受信経路に漏れ、受信系の低雑音アンプまたは後段に過負荷を
かけて、受信感度に悪影響を及ぼすことがあります。
これは、ハンドセット設計者にとって難題となります。設計者は、
音声またはデータの送信によって生じる強い干渉信号がある状態
で、受信される微弱GPS信号に対するGPS受信感度を維持しなけ
ればなりません。そのためには、強い干渉信号をきちんと阻止
しながら微弱GPS信号に対する低雑音指数と高利得を備えたGPS
受信フロントエンドが必要となります。
低雑音アンプと低挿入損失・高阻止性能FBAR
フィルタの集積化
強い干渉信号がGPS受信経路に漏れるのを防ぐには、プレフィル
タを使用することが有効です。フリスの公式によれば、受信系の雑
音指数は、主に初段の雑音指数または挿入損失によって決まり、
その後段には十分なゲインのアンプを使用します。したがって、そ
のような目的を達成するには、低い挿入損失性能および高い帯域
外阻止性能を有するフィルタと、低雑音、高利得および高直線性を
有するアンプを一体化することが重要です。
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アバゴ・テクノロジーのGPSフロントエンド・モジュールは、FBAR
フィルタとGaAs E-pHEMT(エンハンスメントモード仮像高電子移
動度トランジスタ)低雑音アンプで構成されています。FBARは、
アバゴ・テクノロジーによって開発された画期的な共振器技術で、
高いQ値を持つ小型フィルタを可能にします。Q値が高いため、
フィルタ・ロールオフがきわめて急峻になり、帯域外阻止性能が
向上します。このFBARフィルタが集積化されたモジュールは、干
渉信号に対して極めて優れた帯域外阻止性能を実現します。この
特長は、アンプの低雑音指数を維持しながら1.575GHzのGPS信
号に近いあらゆる干渉信号をフィルタリングするために不可欠で
す。たとえば衛星電話通信のように、GPS周波数にきわめて近い
1.62GHz信号を使用している場合、GPS信号を大きく減衰させるこ
となく1.62GHz信号を阻止するために、急峻なロールオフを有す
るフィルタが必要になります。
雑音特性は常に受信系の初段の雑音指数に影響されるた
め、GaAs低雑音アンプが後段に集積されたモジュールの初段とし
て低挿入損失FBARフィルタを使用することよって、きわめて低い
雑音指数と高い帯域外阻止性能を有するGPS受信モジュールが
実現します。
RF性能
表1は、種々のプレフィルタ、ポストフィルタおよびアンプの組み
合せのアバゴ・テクノロジーGPSモジュールのRF性能の一覧で
す。ALM-1912とALM-2712は両方とも、初段にFBARフィルタ、
後段に低雑音アンプを備えています。ALM-2712には、LNA後段に
ポストフィルタが追加されています。ALM-1412は、低雑音アンプ
と後段のポストフィルタの組み合せです。
表1に見られるように、ALM-1912とALM-2712は、干渉信号
に対してきわめて優れた阻止性能を示しています。ALM-1912と
ALM-2712の帯域外入力P1dB性能は、携帯電話帯域、PCS帯域
およびWiFi帯域で、低雑音アンプの前段にフィルタがないALM-
1412よりはるかに優れています。帯域外P1dB性能が高いことは、
モジュールが強い干渉信号がある状態でアンプを飽和させずに
動作できることを示しています。
表1. GPSモジュールのRF性能と簡略ブロック図
単位 ALM-1912 ALM-2712 ALM-1412
GPS LNAモジュール
ALM-1912
ALM-2712 ALM-1412
ALM-1912
ALM-2712
ALM-1412
ALM-1912 ALM-2712
ALM-1412
雑音指数
dB 1.6 1.25 0.8
利得
dB 19.3 14.2 13.5
IIP3
dBm +1.5 +5 +7
入力P1dB
dBm -8 +2 +2.7
入力P1dB
(セルラ帯域)
dBm +39 +21 -6
入力P1dB
(PCS帯域)
dBm +44 +37 -6
入力P1dB
(WiFi帯域)
dBm +43 +35 –
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図2. 妨害信号による雑音指数低下の試験装置
測定と試験装置
3つのモジュールの干渉信号の阻止性能を比較するための測定
は、特定の電力レベルにおいて干渉信号がある状態でモジュール
の雑音指数の低下を測定することにより行われます。この測定で
は、干渉信号の周波数は、GPS周波数に近くまたGPS周波数の
雑音指数に影響を及ぼす可能性がある1.62GHzを用いています。
図2は、この測定の試験装置を示します。
干渉周波数のCW信号(妨害信号/干渉信号)は、信号発生器によっ
て生成され、その干渉信号と雑音測定用のノイズ・ソースは電力
混合器を使用して混合し、GPSモジュールに入力し、モジュールの
雑音指数を測定しました。
干渉信号をノイズ・ソースと混合する前に信号の電力レベルを
高めるために、干渉信号を外部プリアンプによって増幅します。
雑音指数アナライザは、きわめて低い雑音レベルの信号を測定
または受信することができます。したがって、雑音指数の測定によ
り、干渉信号からのあらゆる付加的な雑音を測定することができ
ます。GPS周波数での干渉信号の雑音レベルが高いと、モジュー
ルの雑音指数を測定せずに干渉信号源の雑音レベルを測定す
ることになる場合があります。そのような信号源からの雑音を抑
えるために、干渉信号源の信号を、GPSノッチ・フィルタを使用し
て、GPS周波数の信号/雑音を減衰させます。
前に述べたように、正確な測定のためには、干渉信号のGPS周波
数での雑音レベルを下げることが重要です。図2のように、干渉信
号源に、干渉信号の高調波をフィルタリングする帯域フィルタが
使用されています。さらに、帯域フィルタの後に、GPS周波数での
雑音レベルを抑えるノッチフィルタが2つ使用されています。図3
は、2つのノッチ・フィルタと1つの帯域フィルタを組み合わせた時
の周波数応答を示します。これらのフィルタ応答は、1.575GHzで
減衰100dB、1.62GHzの干渉信号周波数で低損失を示します。
DUT(被測定デバイス)/GPSモジュールの後段には、強い干渉信号
が雑音指数アナライザに入るのを阻止するために、GPS帯域フィ
ルタが置かれます。これは、アナライザが、強い干渉信号によって
過負荷になるのを防ぐ目的で使用されています。
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AV02-3011JP - November 4, 2011
測定結果
図4は、1.62GHzで強い干渉/妨害信号があるときのモジュールの
雑音指数の低下を示しています。干渉/妨害信号がないときの雑
音指数に、この低下分が付加されます。この結果は、図2に示した
試験装置を使用して測定したものです。
初段にプレフィルタのないALM-1412では、干渉信号が-10dBm
の電力レベルに達するまでに雑音指数が1dB以上低下しま
す。ALM-1912とALM-2712は両方とも、干渉信号が20dBmの強い
電力レベルの場合でも雑音指数の低下はありません。
このように、プレフィルタを備えたGPSモジュールが、強い干渉
信号に対してより優れた阻止性能を有することは明らかです。こ
の測定データから、プレフィルタを備えたALM-1912とALM-2712
は、強い干渉信号がある状態で、アンプの前にプレフィルタのない
ALM-1412より優れた雑音特性を有することが分かります。
図3. カスケード・ノッチフィルタと帯域フィルタのフィルタ応答 図4. 雑音指数低下と干渉信号強度
まとめ
初段としてFBARフィルタを組み込むことにより帯域外阻止性能
が向上するため、干渉信号に対して優れた雑音特性を有しま
す。また、FBARフィルタの挿入損失が低いため、全体の雑音指数
の低下を最小限に抑えます。したがって、低挿入損失と高い帯域
外阻止性能のFBARプレフィルタを備えたGPSアンプ・モジュール
は、GPS受信系に最適なソリューションとなります。さらに、すべて
のGPSフロンドエンドを小型モジュール・パッケージに集積するこ
とにより、必要な基板スペースが小さくなり、設計期間の短縮にな
ります。
参考文献
• “GPS Antenna LNA’, by D.Orban and T.Eyerman
• Application Note AN-5240: “ALM-1106 as a 1.575 GHz
GPS Low Noise Amplier”
• “Improving S-GPS sensitivity” by Allen Chien and
Won Kyu Kim (http://www2.electronicproducts.com/
Improving_S-GPS_sensitivity-article-farr_avago_
jun2008-html.aspx)
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